こんにちは。
京王・小田急多摩センター駅から徒歩2分のビルで鍼灸マッサージ院を開業している杉崎とも江治療室 副院長の杉崎 徹です。
今回ご紹介する症例は、専門家ではない私が知ったかぶりをしてはいけないテーマです。わかったようなことを言うつもりもありませんし、すべての解決策を提示するわけでもありません。
ただ、1つの考え方として。
鍼灸マッサージ師の私が心に残る症例をご説明したいと思います。
ー 頭がフリーズする20代女性
Мさん
今から15年くらい前【首がコリ過ぎて脳みそがフリーズするんです。何とかなりませんか?】という女性が受診されました。
すぐには意図を読み取れませんでしたが、それにしてもかなり細身な印象のМさん。足取りはフラフラして問診もおぼつかない中、心を搾り出すように話し始めました。
数年前まで助産師として活躍していたМさん。
若手として激務をこなしながらも充実した毎日でしたが、一方で人間関係が上手くいかず。現場環境を良くしようと進言する度に周囲から煙たがられてしまう。そんな中でもキャラを保とうと笑顔を欠かしませんでしたが、心の傷は少しづつ溜まり続けていたそうです。
そうした日々を支えてくれたのはお母さん。いつだってМさんの味方で、周囲に自慢出来るほど【凛】とした方だったそうです。
そのお母さんが突然の病で天国へ。
心の支えを失ったМさんと、伴侶を失ったお父さんは失意のあまり一切の生活活動が出来なくなったそうです。
『私もウチも、壊れました』
朦朧の中、Мさんはそう言いました。
ー 病名
Мさんが心療内科で受けた診断は【うつ病】
当時と比べるとかなりポピュラーになったように思いますが、それでも当事者以外は理解しにくい病気であることに変わりはありません。
以前、私が訪問マッサージに伺ったことがある【重度のうつ病】患者さんは、立ち上がることもままならず這いつくばるようにトイレへ向かう姿を目の当たりにしました。
Мさんも同じような症状を経て、半年前からようやくご飯を食べることが出来るようになったそうですが、その時すでに20㌔近く痩身していたそうです。
ー うつ病の症状
大きく【精神症状】と【身体症状】に分けられます。抗うつ薬やカウンセリングのほか、規則正しい生活を保つことで自律神経とホルモンのバランスを整えていくのが標準治療ですが、快復には長い時間と想像を超える困難を極めます。
まず知らなければいけないのは、精神症状の1つである【無気力】は我々が想像するレベルではないということでしょう。
怠けているとかやる気がないという問題ではなく、本当に何も出来なくなるといわれます。規則正しい食生活と言われてもご飯を作れないのですから守りようがありません。Мさんも一時は寝返りすら出来なくなったそうです。
身体も、頭も、動かない。
そんな状態で普通の動作をするのがどれだけ難しいか…。発病から数年、周囲の理解不足が更にМさんを傷つけたそうです。
ー 考察
これまでの臨床経験で、心療内科系の患者さんは【異常なほどに首が凝る】方がとても多いことを実感してきました。
首の骨のすぐ傍には、副交感神経の働きをコントロールする【自律神経幹】があります。
うつ病によって脳の働きが弱くなったり、ストレートネックによって首の緊張が強まると、副交感神経が低下し様々な不調が生じます。
言い換えると、首のコリ=【身体症状】を和らげることで副交感神経の働きを助けることが出来るとも言えます。
もっと分かりやすく言えば、首のコリがラクになると頭が働くようになり、快復の手助けになる。
Мさんの言葉を借りて、頭の【再起動】を目指して治療を始めました。
ー セルフケア
心療内科系疾患や自律神経失調症に対して用いられるツボの中で、特にセルフケアしやすいものを3つご紹介します。
【合谷∶ごうこく】

【労宮∶ろうきゅう】

【内関∶ないかん】

これらのツボは【おぉ、けっこう効くじゃん】と思えるほど快適な痛みがあります。
心が疲れたなぁ…。
最近ストレス溜まってるなぁ…。
そんな方がいらしたら、指で押すなり、肘で押してみるなり、左右差なども気にせず気楽に刺激してみてください。
ー 患者さんとのギャップ
私たち治療者が最も陥りやすいミスは、患者さんが求めていることを見誤ることです。
そもそも、ご飯を食べることも寝返りすら出来ない方がセルフケアを実践することは到底出来ません。
治療者がしてあげたいことと、患者さんがして欲しいこととのギャップ。最大のミスはそこに隠れています。
Мさんのリクエストは自律神経を整える治療でもツボ治療でもありません。
Мさんが求めるのはただ1つ。
『とにかく首をラクにして』
それだけです。
いくつかの治療院で何度もそう伝えてきたのに、どこもそれを叶えてくれない。自律神経やうつ病に効くというツボ治療ばかりで、首の治療はちょっとだけ。
再びМさんのお言葉を借りれば。
『何度もハンバーガーを食べに行って、ご一緒にポテトを勧めれて、結局ポテトしか出てこなかったみたいな感じなんです』と。
(ウマいこと言うなぁ)
今のМさんに【東洋医学に基づいた治療】は意味をなしません。私は、ハンバーガーだけ出すことにしました。
ー 治療
以前ご紹介した【風池】と【天柱】を基点に少しづつ位置を変え、角度を変え、深さを変え。1時間みっちり首の因数分解を続けました。

開始からしばらく、ここぞというツボにハマった瞬間、首から目の奥にジワーっと1本の刺激が走ったような感じがした!と興奮されたご様子のМさん。フリーズした頭が動き出したと嬉しそうに帰っていかれました。
こうして始まった鍼治療。
多い時は週2回、月経周期や天候、不測のストレスなどでフリーズが起きる度に【Мさんのツボ】を中心に治療を重ね、服薬や外出トレーニングを根気よく続けていくうち徐々に通院ペースも少なくなりました。
鍼治療を始めておよそ3年。
うつ病もフリーズも完治。
それから10年以上、毎年送ってくださる年賀状からは2児の母として快活に過ごされているご様子がうかがえます。
近年、うつ病に対するツボ治療の効果が注目されています。ただ、あくまでそれはお薬の効能や自律神経の働きを補助するものであり【鍼灸マッサージでうつ病が治る】わけではありません。
そもそもМさんは、当室へ【歩いて来ることが出来れるまで】快復されていたのですから、すでに重症期を脱した状態とも言えます。
ただ、Мさんはこう言ってくれました。
私にとって首のコリを解消出来たということはものすごい転機でした。
だって、どうすることも出来なかった首の痛みが治せる手段があるってだけですごく安心したんですから。
たった1つの身体症状だけでも、治せる手段があると心がラクになる。ちゃんとハンバーガーを出してくれる所がある。
それだけで、患者さんは安心する。
身体の調子が良くなることで、
頭の調子が良くなるきっかけになる。
Мさんは、それを教えてくれました。
教科書がいつも正しいとは限りません。
その方が今求めていることが、本当の正解だと思って日々臨んでいます。
ご精読ありがとうございました。
杉崎とも江マッサージ・はり灸治療室
📞 042-374-672
(午前8時30から)
東京都多摩市落合1-6-2
サンライズ増田7F
モバイルをご利用の方は下記↓の📞マークからお電話頂けます
Comments